「チェイサー」★★★


(映画の内容に割と触れていますが敢えて隠さない)
殺されることに理由はあるか。トンカチで頭かち割られて終わる人生に何か失点はあったのか。
失点などなかった。なぜなら犯人はモンスターだからだ。化物の目に留まった。それだけが彼女や彼らが殺されてしまったあえての「理由」なのだろう。犯人に動機や理由を求めてはならない。できることは速やかに彼を止める事だけであった。
しかし追いかける側にはモンスターを捕まえようという意思が一向に低い。彼らが掲げているはずの正義は生活の前では金にならないので、クソ以下の扱いを受けるのである。元刑事の主人公も例外なく、クソ以下の現実の中に生きている。彼がモンスターを追う理由も、最初は正義とは程遠く、それがやがて正義に近いものとして昇華されていくのが、ほんのかすかな人間の善意や正義にかかる希望の光となるけれど、彼の両手に掬われたそれは、あまりに僅かだ。
主人公が彼を追いかけて行く中で行き会う、その存在をうっすらと知りながら、目を逸らすことで目をあわさずに、実に狡猾に類を他人に押し付けて生きながらえたごく普通の人々の、生きているのに死んだような目とあわせて、まったく正義は神と同じく死して久しいのだと思い知らされる。

彼女たちは死んだ。惨たらしく殺された。誰のせいだと言われれば、明白だ。わたしたちの所為だ。

というわけで、兎に角どんな窮地に立ってても、目の前にチャンスがあれば躊躇わない行動力(トンカチ振りかぶってGO!)といい、驚異的な運の良さといい、本来ヒーローが持つべきものをモンスターが持ってたら本当大変という話でした。話としては非常に面白いけど、映画としては洩れなく不快感で胸いっぱいになれます。