「冷たい熱帯魚」★★★★

お父さんは報われない。


映画におけるお父さんという存在において現代を象徴するのは「クレヨンしんちゃん」シリーズにおけるお父さん・父ひろしだと思っているのですが、その苦悩と報われなさを端的に示すアニメのエピソードがテレビシリーズにある。いつの、なんていう回かは失念しているんですが、「オトナ帝国」よりは前だった気がする。

新しい靴を買いに出かけた妻みさえと子供たちは、あれもこれも、と靴屋を物色していたのだが、その内お父さんの靴のコーナーに差し掛かったとこで、「どうしてあんなに父ひろしの靴と靴下はあんなに臭いのか?」と笑いあう。するとそれまで数々の(推して知るべし)傍若無人にも必死に耐えていた靴屋の主人(彼もまたお父さんなのであろう)が、キレて叫ぶ。
「お父さんの靴と靴下が臭いのは、貴方たちの為にその靴すり減らして一日中頑張っているからなんですよ!」と。
その言葉にはっとしたみさえたちは、自分たちの靴を買うことをやめ、ひろしの新しい靴を買い、ひろしに「いつも私たちの為に頑張ってくれてありがとう」とプレゼントするのであった。

以上はひろしの数少ない報われる回であり、今までひろしの靴下の臭いでさんざん笑っていた視聴者に突きつけられた、メッセージの回ある。こんなにも頑張っているのにわかってもらえないお父さんの悲劇。
本作「冷たい熱帯魚」の主人公(吹越満)の抱えこんだものも詰まるところひろしの苦悩と変わりはない。彼は「家族のために」殺人鬼に加担する。ポジティブさと”後片付け”の徹底さがハンパない殺人鬼でんでんもまた、「家族のために」手を汚した事がそもそもの発端のような事をちらと覗かせる。お父さんちょうがんばってバラしました! 醤油ガンガンかけました!

そのクソ退屈でドン底まで冷え切った家族関係ではあっても、いつか、もしかしたら報われるかもしれない、という可能性を、「家族のために」自らブチ捨ててしまった男の映画でした。面白かった!

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